噛み締め・呑気症

「噛みしめ・呑気(どんき)症候群」
―習慣、ストレスによる不安や緊張などで起こされる身体の症状

院長:小野繁      

「噛みしめ」ることは誰もがやっているのです。どの様な状態を表すかと言えば、ここで言う「噛みしめ」とは食事をするとき以外に奥歯を合わせることを指します。 重い物を持ったり、頑張ってと言うときに歯を食いしばると言うことがあります。あの動作です。噛みしめたままとか、一瞬の噛みしめなど、誰でも経験があると思います。どんな人に起こりやすいかと言いますと、


1)上下の奥歯が接触していることが普通と考えている人
(口をしっかり結びなさいと言われ、いつも注意している人)
2)習慣的に噛みしめる回数が多い人
(一生懸命何かをしているときなどに歯をあわせている人)
3)姿勢によって上下の奥歯を接触させてしまう人
(例えばパソコンの仕事は少しうつむき加減になりますが、これは奥歯を合わせ易いのです)
4)うつ気分の人
(うつ気分の時には、うつむき加減になり考えていると上下の奥歯が接触してしまいます)
5)不安や緊張起こしているストレス状態にある人
(ストレスに対する構えがあると緊張して上下の奥歯を合わせてしまう)


そこでげっぷやお腹の症状では内科や外科、胃腸科を受診し、頭や首の症状では脳外科、整形外科、耳鼻科。眼科、歯科・口腔外科、など症状別に受診しています。(図-1)

噛み締め・呑気症の説明図
(図-1) 症状別に診療科を受診するとこれだけの数の診療科を受診することはまれではない。ドクターショッピングとなる。しかし検査で何ともないと言われたら、これは「噛みしめ呑気症候群」の一症状であると考えた方がいい。

しかし何処の診療科でも異常ありませんと言う答えが返ってきます。これは症状が気にならなければいいのですが、気になれば病気と感じるわけです。病気ではない病気なのです
何処の診療科に行っても正常という答えしか出てきません。しかし症状だけはあるので、また病院を訪れます。こうしていくつかの医療機関を回ることを、ドクターショッピングと言います。


実はこれには答えがあるのです。それが「噛みしめ・呑気症候群」です。これがなぜ頭痛や肩こり、こめかみの痛み、眼の奥の痛みや吐き気を伴ったりするのでしょう。さらに消化器症状として、げっぷがでる、胃部の不快感、お腹が張る、ガスが多いなどの症状が出ます。おまけに胸の痛みや心臓の痛みまで起こすこともあるのです(図-2)。

噛み締め・呑気症の説明図
(図-2) 「噛みしめ呑気症候群」で見られる症状:頭頸部の症状があり、とさらにお腹のガス症状は他の症候群と重なっている。


誰でもやる噛みしめは物を飲み込むときに行う動作の一つなのです。これは飲み込みの反射運動すなわち嚥下反射第・相と言います。物を飲み込むときはこの動作を行っているわけです。歯を合わせないで飲み込み運動をやってみて下さい。飲み込みづらいと思います。そこで歯を合わせて(噛みしめて)飲み込んでみて下さい。如何でしょう。飲み込みは簡単に出来たと思います。


この嚥下反射の流れは(図ー3) 
(1)歯を合わせる(噛みあわせる)、
(2)舌が上アゴに押し当てられる
(3)唾液が舌の上からのどの方へ流れる
(4)唾液がノドの途中に止まる
(5)これを飲み込む

噛み締め・呑気症の説明図
(図-3) ・図の上は歯を合わせていないリラックスした状態
・図の下は歯を合わせ舌が上顎に押し当てられている
唾液はノドに流れ、これを反射で飲み込むが、空気が同時に飲み込まれる。舌や頬の粘膜は歯に押しつけられ痕がついている。

この動作の最後のところで飲み込むのは唾液だけでなくこれと一緒に空気を2〜3cc飲み込んでいるのです。食道に溜まった空気はゲップとして出たり、胃に入れば胃がふくらみ、時間と共に大腸まで移動します。これらがお腹のガス(空気)として観察されます。


お腹のガスの70%が飲み込みガス(空気)と言われております。単に早食いをしたり、炭酸飲料を飲んだだけでお腹に大量の空気が溜まるものではありません。誰でもがやる噛みしめが空気飲みすなわち呑気を起こしているのです。嚥下反射の回数が多くなればそれだけ空気量(ガス量)が増えるのです。
(図-4-1、図-4-2)

レントゲン写真1
レントゲン写真2
(図4-1)
お腹のレントゲン写真で
大量の空気が胃に入っている

(図4-2)
胃にも腸にも
ガスが溜まっている

それでお腹の症状から心臓の症状まで出すことがあるのです。この症状から色々検査しても異常は見つかりません。胃や腸が悪くて出る症状ではないからです。

次に頭痛や肩こり、首の痛み、顎の痛みはなぜでるのでしょう。これは噛みしめ動作が噛む筋肉すなわち咬筋、側頭筋と言いますが、これを使います。これは食べるときに使うのですが、緊張したり不安になったり、力を入れるときにも歯を合わせるためにこの筋肉が使われます。
 ですからあまり歯を合わせる動作が続くと筋肉が疲れて痛みを出すのです。これが顎の痛みやこめかみの痛み、眼の奥の痛みを出します。同時に緊張から肩こりが起こったり、肩の緊張が緊張性頭痛を起こします。この様に肩や首、頭や顔にまで痛みが起こります。

噛みしめ呑気の治療についての考え方


「心療内科と歯科との共同治療が基本」


「噛みしめ呑気症候群」の治療対応としては、心身医学療法とスプリント療法となります。すなわち、噛みしめを起こす習慣やストレスとなる要因などについての治療とスプリント(マウスピースと同じです。以下スプリントとします)による治療が並行して行われます。心身医学的治療では頸肩部の筋緊張や噛みしめを誘発するような精神病理、ストレス病理となる心理社会的な背景を考慮して、心身医学的な治療を行う必要があります。その中でも病態説明が重要なのです。これに関しては心療内科治療の中で並行させて行くことになりますが、現状では心療内科の医師にとっては「噛みしめ」の病態を完全に理解しているとは言いがたいのです。スプリント(マウスピース)療法は歯科的な知識が必要なのですが、心療内科医に歯科医師の様な咬合やクレンチングに対しての理解はあまり期待できません。一方、歯科医師にとっては「呑気」の病態や消化器症状などは日常診療の中で治療範囲ではないことから、呑気に関する十分な知識はないと考えます。したがって本来はこの医師と歯科医師の共同作業ができて初めて治療が成り立つのですが、現状では治療上の問題はここにあります。そこでスプリントだけでもよくなる人もおりますのでそのスプリント療法をここに述べます。

「スプリント療法と病態(空気嚥下機構)説明」

空気嚥下(呑気)の原因が何であれ、治療に不可欠なのがスプリント療法です。スプリント療法の原則は下顎のスプリントの装着です(上顎へ装着するスプリントの方が、異物感があります)。スプリントの厚さは0.5mm〜1.0mm程度で、臼歯部の咬合面のみにレジンを盛りたし下顎安静位にまで咬合を挙上します。

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* **下顎安静位より少し挙げても顎関節頭が関節窩内にあれば、補綴学的にも顎関節には負担がかからないこと、噛み合わせへの影響もないと考えられ3mm程度まで挙上いたします。 装着は2〜3ヶ月の間は経過をみます**症状改善は早い人で2~3週すると、それまでの症状が半分くらいになります

「誰でも行っている唾液嚥下を考える」

誰でもが行っている唾液嚥下は、空気嚥下を伴います。嚥下反射(唾液嚥下)は嚥下第Ⅰ相を形成することで起こります。噛みしめ呑気をする人は平素より臼歯部を接触させ、嚥下しやすい状態にあります。そこで下顎安静位(安静空隙)を保持することにより、舌を口蓋につけにくい状態になります。唾液嚥下の頻度が多いのは無意識での唾液嚥下が多いのです。「スプリント療法」は無意識の唾液嚥下の回数を減らすことにあります。例えば、スプリントを入れることで10回嚥下のうちの無意識に嚥下するのが4回あれば、この無意識に飲み込む4回を減ずることができます。4割の回数が減れば 空気嚥下量も4割減る計算になります。
その後は努力で1〜2割減ればほぼ正常の状態に近づきます。またスプリント装着時には、スプリントは異物ですから刺激で唾液の流出があります。この唾液をこまめに飲むのではなく、少し溜まったところで飲む様にします。(例えば唾液が溜まってすぐに飲み込むのではなく、3回飲むところをためて1回にするのです。唾液量の多い方が、同時に嚥下する空気量の比率が少なくなります) したがって、こうすることで空気の嚥下量は少なくなり、嚥下回数が減ることになりますので、患者さんにはこれを訓練してもらいます。

「治療目標について」

いずれにしろ 誰でもが行っている唾液嚥下は完全になくなると言うことはないのです。ゲップや排ガスは普通にあって、全くなくなるわけではありまあせん。その量が問題なのです。
そこで「治療目標」は少しでも日常生活に支障にない程度に減量されればいいと考えます。これに対する対応が、筋緊張を起こすような精神的バックグラウンド(精神病理、ストレス病理についての対応)がある場合は心療内科で治療を行い、一方、噛みしめによる唾液嚥下反射を減ずるのが歯科的(臼歯部のスプリント装着)に行うスプリント療法なのです。

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呑気を原因から考えて治療を行うので原因をまとめてみます

「原因のまとめ」

1)習慣的に行う噛みしめ(舌だけ口蓋にを押し当てる人もいる)
2)ストレスなどがある時の緊張状態で起こす噛みしめ
3)うつむき加減の姿勢で起こりやすい噛みしめ
   パソコンなどに従事するときの姿勢など
4)うつ状態の時(うつむき加減で噛みしめが起こりやすい)
5)不適応義歯(あわない入れ歯 気になる入れ歯など)
6)オーラルディスキネジー(口を無意識に動かす人)
 などがあり、これらが臼歯部の噛みしめを起こしやすいのです

「治療法のまとめ」

1)空気嚥下の機構に関する十分な説明(病態説明)により症状発症の理解をしてもらう……習慣 緊張ストレスなどで行ってしまう空気嚥下に対する対応……
これにより症状に対する不安は半分くらい改善する

2)うつ状態や緊張不安がベースにあれば薬物療法、心身医学療法を行う…うつ状態 神経症 心身症に対する対応

3)心理療法としては自律訓練法などを行う…平素より緊張状態に陥りやすい人のリラクゼーションの習得による対応

4)カウンセラーによる 医療カウンセリングによる治療を行う…日常の慢性ストレスやライフイベントによる症状発症の生活背景があるとき必要となることがある

5)唾液嚥下を意識化させて 無意識での唾液嚥下を減ずるために下顎にスプリントを装着する…症状発症の原因に関係なく全ての症例に対しての対応法